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横浜家庭裁判所 昭和36年(家)1484号 審判 1961年11月13日

申立人 (後見人) 中山昌孝(仮名)

被後見人 中山孝(仮名) 外一名

主文

申立人が被後見人中山孝同中山武の後見人に就職したときから昭和三十六年五月十五日までの職務執行の報酬として金一六、八〇二円を支給する。

理由

申立人は、「被後見人中山孝同中山武の後見人として報酬金の支払を求める」と申立て、その理由として、「申立人は、昭和三十五年十一月四日横浜家庭裁判所において、被後見人中山孝同中山武の後見人に選任されたものであるが、申立人が後見人に就職後既に昭和三十五年十月一日被後見人等の実兄中山一男が交通事故により死亡していたため、同人につき相続が開始し、被後見人両名が相続人であつたので、後見人において、前記一男の交通事故の相手方である川崎市中島町一丁目○○番地○○運送株式会社に対し数回に亘つて慰藉料支払の交渉をなすとともに、必要書類の作成現金の受領等をなし、更に上記一男の生命保険金の受領に関する一切の行為をなし、他方被後見人両名の住居搜し、同人等所有の現金の運用等相当煩雑な事務を処理し、それに要した交通費、日当額は合計二五、〇八〇円に達する。更に後見人は東京都文京区金助町○○番地において全国交通サービス協会と称する運送業を営みおりたるところ、前記後見事務処理と競合し、事業に専念し得なかつたため漸次営業不振に陥り昭和三十五年十月以降翌三十六年四月迄合計五五、八〇四円の減収となつたので、上記金額の合計金八〇、八八四円を後見人に対する報酬金として、その支払を求める」と述べた。

よつて本件記録に添付してある各戸籍謄本および関連記録である当庁昭和三十五年(家)第三四四四三四四五号後見人選任事件記録並びに家庭裁判所調査官の調査の結果を綜合すると、申立人は被後見人中山孝同中山武の伯父として、昭和三十五年十一月四日当庁において後見人に選任され、爾来申立人主張の如き中山一男に関する交通事故による死亡に対する慰藉料、生命保険料等の請求、受領現金の保管等の事務を処理し、そのため昭和三十五年十月十二日から、同三十六年五月四日迄前後三十七回に亘り、申立人の住所地たる神奈川県藤沢市辻堂○○○○番地から中山一男の勤務地であつた神奈川県川崎市元木町○○○番地神奈川都市交通株式会社営業所或いは横浜市所在の同会社の本社等に赴き、合計六、一八〇円の交通費を支出したことが認められるのであるが、右交通費は後見事務費と認むべきであり、後見人の報酬に加算さるべきものではない。次に申立人は上記期間において実質的に後見事務を処理した日数は三十一日半であるから一日六〇〇円で計算した合計一八、九〇〇円を日当として請求し、更に上記事務処理に基づく事業の減収の填補として金五五、八〇四円を請求しているのであるが、凡そ後見人に就職し、後見事務を処理し、そのため或る程度自己の経営する事業に専念し得ざるに至る結果多少事業収入が減少することは推測に難くないところであるが、かかる減収は所謂得べかりし利益の損失として別途請求するは格別、当然に後見人に対する報酬に加算さるべきものではないから申立人に対しては後見人として実質的に事務処理をなした日数分の日当を報酬として支給すれば足ると解すべきところ、前記各証拠資料によれば、申立人の平均賃金は、申立人の経営する事業が正常に運営されていた昭和三十四年十月から昭和三十五年九月迄を基準として算出すると一日金六一一円となり、更に申立人が昭和三十五年十一月四日後見人に就職以来、昭和三十六年五月十五日現在で、実質的に後見事務を処理した日数は二十七日半であるから、これに前記平均賃金一日分六一一円を乗じた一六、八〇二円をもつて、前記日時現在で、申立人に対し後見人に対する報酬として支給すべき金額と認めることが相当である。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 安達昌彦)

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